概要
著者は、アメリカのソフトウェア会社「ベースキャンプ (旧 37signals)」のエンジニアで、この会社はRubyOnRailsを開発しているので有名だと思います。この本が出版される頃でも社員は16人と小規模で、それを可能にするために 「常識」や「王道」の考え方を根本から見直し、事業から開発の仕方、働き方まで別の角度で異議を唱えている意欲的な書籍です。大きな組織に辟易している方には読んでいただきたい一冊です。
感想
章ごとに数行の感想を書いていきます。
現実の世界なんて無視しよう
「現実」の世界は、悲観と絶望と言い訳に満ちているから、引きずり込まれないように無視しようという話。「現実」にはステレオタイプな考え方がはびこっていて、規模や失敗確率の誤解、計画の害悪など私達が信じまくっている内容を1章から覆していく。
先に進む
自分たち(ベースキャンプ社)で必要な「自分が使いたいものを作る」や「時間がないは言い訳」、「信念を持つ」、「身軽でいること」など前進するために、後回しにしないこと、不要なものは作らないことなどが語られている。前進・行動することの大切さが語られている。この中では、「身軽でいること」というのは、大変共感していて、通常業務でもいつのまにか色々な制約や契約に縛られて、遅くなっていることが多いがビジネスはスピードが命なので、この部分はかなりの神経を使って注意を払うことがいいと思います。
進展
「制約」から知恵が生まれ、少ないことをうまくやり、必須機能から取り組み、決断して前進するという話です。また、世の中に目を向けると変化しているものと変化していないものがあり、それをどうキャッチしていくかなどが紹介されています。前章の「先に進む」に近いのですが、より具体的な内容になっています。
生産性
書類は幻想で、やることに対して意味をもたせ、集中できる環境づくり・時間づくりが大事で、会議はなるべく少なく、完璧を目指さないということが大事だということが書かれています。完璧を目指さず、小さい目標を設定し、どんどん仕事をするというのは本当に大事で、日本人はこの真逆をよくやっているとおもいます。立ち上げフェーズだとスピードがやはり大事なので、どんどん細かくリリースすることが大切です。
競合相手
すでに競合相手がいる場合は、表層を真似るだけではダメだし、競合相手より上をいかないと勝てないし、しかし競合相手が何をしているかなんて気にする必要がないと書かれている。言ってることは矛盾しているような気もしますけど、気にしすぎると判断を誤るから、自分のプロダクトに集中することを促している。
進化
「基本的にノーと言おう」、「熱意を優先順位と混同するな」、「舞台裏を見せる」などについて書かれているが、前半は進化するために、ついついやってしまいがちな『良い人』のようなものは、プロダクトやサービスを全く成長はさせないと書かれていrました。そして、後半の「舞台裏を見せる」は、ノウハウみたいなものは公開しても実際に大切なのはノウハウを作り出す過程だったり作り出す人なので、公開してもいいという話でした。ノウハウは常にブラッシュアップしていくもので、現時点のスナップショットを公開してもすぐに風化いくとのことでした。確かにそうだとは思いますけど、不変的な事項のフルオープンは躊躇しそうだなとおもいました。
人を雇う
「限界で人を雇う」、「履歴書はばかばかしい」、「全員が働く」、「文章力のある人を雇う」で、ここの章がこの本の言いたいことの大きな1つだと思います。如何にチームを小さくするか、どう採用の基準をどうみるか、そしてどう効率的に働くかが書かれています。個人的にはすべて同意なので、時間がない人はこの章だけでも読むと良いと思います。
ダメージコントロール
「対応の速度はすべてを変える」、「謝り方を知る」、「全員を最前線に」とあり、スピードを落とさないために、どうするかを考えるのはすごい大事だと思います。設計も、コードも、採用もスピードが落ちるなら一旦考え直した方がいいと個人的にはおもっています。「文句は放っておく」で大事なのは、自信があるなら突き進むということを書いてあります。人は変化に敏感で、反応するけどすぐに慣れるというものでした。
文化
この章は、「文化はつくるものではない」、「従業員ではガキではない」、「大げさに反応しない」、「なるたけ早くは毒」などに言及されている。文化は作るものではなく、自然発生的に醸成されていくものだし、従業員のために細かくルールを作らなくてもいいし、「なるたけ早く」は、本当の緊急時のみに使用することとしています。特に「なるたけ早く」は依頼側が勝手に期日を設定するわけで、そんなときほど仕様はボロボロなのでホントにやめてほしい。
最後に
この書籍は、海外での会社の中のことを書いていると思いますが、日本の事業会社の実態とそんなに変わらないなと感じています。僕がこの10年くらいで開発組織やチームをうまく蘇生するチェックポイントだったり教訓だったりが、そのまま書籍になっていました。
自分自身、大きな会社も小さな会社も経験をしましたが、むやみに人を増やすとコミュニケーションにかかる時間が増えていき、生産活動時間が減っていくことを目の当たりにしました。適切な文化醸成であったり、情報共有ルールなどの整備を行うことで、人を増やしても1人あたりの生産量が減らない、もしくは減りにくい状況にはなるかなと思います。
この書籍から学べることはあると思いますので、ぜひ読んでみてください。当たり前のことのように思いますけど、理由まで説明されているので、頭に残りやすいと思います。